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台南市の繁華街の通りを進み、孔子廟を抜けると住宅街です。アパートが立ち並ぶ中に建つ桃源郷のような古民家、そこが謝宅のスタジオでした。創始者の謝文侃さんが親切に私たちを招き入れてくれ、中に足を踏み入れると、古民家の趣や様々なディテールが十分に感じられました。

 

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家族の中で5番目の成員だったため、「小五」と呼ばれている謝文侃さん。謝宅を始めたのは10年前のことです。民宿もあまりない時代でしたが、台南の貴重な古民家2棟が解体されたことをきっかけに、ずっと古民家が好きだった彼は行動を起こす時だと思い、国立成功大学建築学科と協力して謝宅の最初の1棟を修復しました。

 

小五さん曰く、現在謝宅の建物は5~8棟あるとのこと。なぜ明確な数でないのか尋ねてみると、常連客だけ利用できる部屋もあるし、解体や結合が可能で、顧客に合わせて部屋のタイプを変えたりもするので、感じ方も違ってくるとのことでした。彼は、謝宅を神秘的な感じにしたいと各棟に呼び名をつけ、宿泊客もその住所に直接行くのではなく、専属のスタッフに連れられて入ります。用意されたルートを通ることで、贈り物を開けるようなうれしい驚きがあります。その人だけのための見事な演出は、細部すべてにしみじみと味わうだけの価値があります。

 

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この10年間、ゼロから始めるのは決して楽ではありませんでした。小五さんは謝宅の古民家を修復し際立たせるように尽力しただけでなく、台南の暮らしぶりを絶えず発信し、台南の魅力を感じてもらいたいと願ってきました。最初の謝宅は正興街の近くにあります。この地で育った彼は、謝宅だけでは台南という街を変えることは難しい、点を線や面にしていく必要があると考え、正興街に茶館を開いてから、他店と共同で数々のイベントを開催し、正興街に活気と賑わいをもたらしました。ここから、台南に対する新たな認識を徐々に人々に広めていきました。台南という街への熱い思いを、小五さんは行動で示したのです。

 

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「台南はエネルギーに満ちた街。でもそれを正しい方法で発揮してこなかった。自分は違うやり方でこの街の魅力的な一面を見せただけです。」彼の後ろの壁には、芸術家、侯俊明氏の書画が掛けられ、「唯有利他、才足以称王(他人を利してこそ王と呼ばれる)」の文字がありました。小五さんから謝宅と台南のことを伺って、私たちはこの言葉の力に深く感じ入りました。

 

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謝宅では、毎年オリジナルデザインのカレンダーを出し、切り紙やテラゾーから、今年の光線と蔵書票まで、違うテーマで古民家の物語を描いています。カレンダーの赤い光は紙に反射した色で、緑は植物、赤は台南の古民家を表現しています。(サインは自由の女神像の照明デザイナー、周錬氏)

旅についての話になると、小五さんはこう語りました。「謝宅は外からの旅行客だけのものではなく、台南の人皆が泊まってみるべきだと思っています。地元の人の方が、外から来た人よりももっと衝撃を受けるかもしれません、違った角度から台南を見ることになるから。」彼は、自分がアイスランドに行ったとき、現地でとてもリラックスできたけれども、帰路でバタバタしたため、せっかく充電したのにすっかり消耗してしまったことをあげ、旅行だからといって自分が住んでいる街から出る必要はない、街中での旅行なら消耗も最小限で済むし、実際、謝宅のお客さまの1割は台南の人だと話してくれました。街中での休暇が、謝宅が一貫して目指している雰囲気。生活に追われる毎日から離れ、謝宅に来れば心地よさを味わえるのです。

 

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謝宅に入った私たちは、小五さんの細部にわたる計らいを体感することができました。室温、香り、音楽、飲み物から目に入ってくる古民家の趣まで、ただただ心地よく、五感すべてをもてなすのが謝宅流なのだと、ブランドマネジメントの気配りに感じ入ったのです。同じようにAltoも、お客さまが製品を手にした時に、パッケージ、デザイン、革の風合い、精緻な手触りなどから、私たちのあらゆる細部への気配りを感じてもらいたいと願っています。とはいえ、小五さんが語ったように、「重要なのは、まだやらなければならないことは何か」であり、永遠に終わる時はないのです。

 

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小五さんは、使って1年余りになるAltoトラベルフォンウォレットを開き、日頃の使い方を教えてくれました。冗談まじりに「酷使」していると言いつつ、普段のお財布にするほか、給料支払日にはよく分厚い札束を詰め込むこと、とりわけ便利なのは万年筆も持ち歩けること、他のお財布ではこうはいかないと話してくれました。また、旅先で重要なパスポートやカード類も入れられる行き届いたデザインについても、アイスランドに携帯し、とても便利だったとのことです。

 

今回の7周年記念独占インタビューのおかげで、謝宅のスタジオで台南のゆったりとした時と満ち溢れるエネルギーを感じ、褐色のトラベルフォンウォレットが歳月を刻み付けて年季の入った革になり、古い木の扉で作った大きな机の上に置かれて見事に調和している様を目にできたことを、とても感謝しています。まさに時間というものは最も偉大な芸術家。革や古民家に刻み込まれた傷や跡に、人はいつも深い味わいを感じるのです。