牛が食用となった後に残った皮は、鞣す(なめす)ことで長く保存することが可能となり、さらに様々な製品として用途が広がります。ここでは100年にも渡り広く伝わってきた皮鞣しの技術をご紹介します。工業が発達した現代でもなお、複雑な工程を経てようやく完成する美しい革。工程の各プロセスにおけるわずかな違いが、革の最終的な出来栄えに影響します。Altoの革がどのように生まれるのか興味が湧きませんか?さあ革製造の現場を見に行きましょう!
Altoの皮工場は遠くイタリアにあるため、台湾の徳昌皮革製品さんのご厚意でその皮革工場を特別に見学させてもらいました。今回はその様子をご紹介します。
最初に目につくのはたくさんの大型ドラム(洗濯槽のような形状)。動物から取った生皮は毛や肉片など腐敗する組織が付着しています。そのため、まずこの大型ドラムに皮を入れ、4日間水に浸します。製造中は殺菌剤、石灰、粉末クロム、酵素などの化学薬品を加えていきます。石灰は脱毛に使い、また裏側についている肉片を除去します。その後にクロムで鞣します。そのままでは腐敗する皮がこうして長く保存できる革へと変化するのです。
クロムは薄いブルーの色をしています。そのため水場処理を終えて濡れた皮は、「ウェットブルー(」とも呼ばれています。この工程では、クロムを使わずに植物タンニンなどの化合物を使う、植物タンニン鞣しを行うこともできます。クロム鞣しと植物タンニン鞣しはそれぞれ特徴が異なり、クロム鞣しは後工程になると可塑性が増し、豊かな表情の革になります。一般に販売されている皮革製品はクロム鞣しが主流です。
原皮は分割の工程で銀面と床面からなる皮に分割します。この段階で先に製品の材料となる皮の厚さを設定し、それから職人がウェットブルーを分割機(スプリッティングマシン)で銀面と床面に分けます。銀面のある革はフルグレインレザーと呼ばれ、価値はより高くなります。フルグレインレザーには皮本来の毛穴や自然なしぼがついており、強くしなやかで耐久性に優れ、加工を経て高級で付加価値の高い製品となります。床面は繊維層で、スプリットレザーとも呼ばれています。さまざまな風合いに加工することができ、価格もやや低めになります。
分割別のドラムに入れ、鞣し工程を始めます。そこに粉末の着色剤を入れ、原皮に基本となる色をつけます。その他にも革全体の手触りを決定づける細かい工程がたくさんあります。通常中型のドラムでは一度に合計もの皮を鞣すことができます。大型のものでは合計以上も可能です。私たちが皮工場に材料となる革を発注する際、量が決められるのはこのためです。また、革製品のオーダーメイドが難しい要因でもあります。
鞣し工程が終わり、商品を製造できる状態になった革は、そこからさらに伸ばし、バキューム、乾燥、ネット張りなどで表面の質感処理を行わなければなりません。まずは大型の低温真空乾燥機(アイロンのような機能)にかけ革全体を平らにします。
次に革を衣服のように吊り下げて乾かします。大型のオーブンの中で熱を加えて乾燥させることもあります。この作業は通常工場の天井一杯に革を吊るしますので、生産のピーク時には壮観な眺めとなることでしょう。
アイロンをかけた革は、さらにネット張りを行います。乾燥させた革は縮むため、ネット張りで革を元の大きさに戻し、使用できる面積を増やすことが目的です。
ニーズに応じ、空打ちドラムを使うこともあります。小型ドラムの中に革を入れて回転させる作業(空打ち)で、目的は革を柔軟にし、革表面に自然なしぼ感を出すことです。Altoが使用しているアニリンレザーはこの工程を行うことで自然なしぼができます。空打ちの時間が長いほど、しぼは細かくなりライチの表皮のような質感になります。そのため加工後の革の模様をよく「ライチしぼ」や「ライチ革」と呼んでいます。もちろんライチしぼはプレス加工によっても作り出すことはできますが、自然につくしぼの表情にはかないません。
次は革表面の塗装です。ほぼすべての革は吹き付けまたは手作業で着色されます。鞣す際にも粉末の染料を加えますが、正確な色にするために顔料を吹き付けて調整します。革を大型のスプレー機械の中に入れムラなく色を吹き付けていきます。
塗装工程における顔料は最終的な革の質感に大きく影響します。水性染料は、革の自然な質感を留めることができる、いわゆるアニリンレザーです。アニリンレザーはAltoが採用している革の種類で、革の魅力を最大限に表現することができます。しかし、傷痕や虫さされ跡など元からある瑕疵が現れやすいため、上質な皮を厳選して製作しなければならず、必然的にコストも上がることになります。
表面の色つやにしぼが同化しているような皮では、塗料を多めに塗布すると皮本来の自然なしぼと質感が覆われてしまう場合もあります。しかし、これは皮に元からある傷痕や瑕疵を覆い隠すという長所でもあり、革の使用率を高め、大変経済的です。化粧に例えると、アニリン染色はノーメイクで、厚く塗料を塗るとフルメイク。顔にニキビ跡や小じわがある時は、メイクで隠すことと同じです。
革を選ぶ時、ブランドによって革の好みや製品の質感はさまざまです。Altoはできる限りアニリンレザーを使い、革本来の自然な風合いをお客様にお届けしています。アニリンレザーを使い込んだ時の自然な色つやをお客様に楽しんでいただきたい。Altoの革製品の色が変化していく理由はそこにあるのです。
革の製造工程は非常に専門的で奥の深い作業です。さまざまな革のニーズにより、実際はもっと多くの製造プロセスと方法があります。例えば染料エンボス加工、オイルワックス仕上げ、ヌバック仕上げなどがあり、それらの技術で独特な特徴を持つ革を作り出すことができます。品質検査と等級分けの方法もまた複雑です。ここでは紹介しきれませんが、革製造には実に多くの知識や技術が必要なのです。
いかがでしたか。Altoにとって非常に重要な革がどのように製造されているのか、大まかに分かっていただけたと思います。私たちはこの貴重な自然の材料を大切に使い、心を込めて製品にしています。真心と努力が詰まった革製品を楽しみ、お客様の手の中で革を美しく輝かせてほしいと願っています。