ISM主義甜時(PÂTISSERIE ISM)に足を踏み入れると、空間の清潔さや爽やかさがすぐに感じられました。一目で見渡せるガラス張りの厨房が、客席に向かう際に必ず通る場所に設置され、まだ開店前だというのに、中では活気に溢れた準備が既に始まっていました。お客さまが注文後、忙しく立ち回る姿を眺めながら、注文したスイーツができるのを楽しみに待つ気持ちが想像できるようでした。
「芸術というのは、決まりきったイメージの絵画や音楽、業界に限定されるものではありません。芸術とは物事に取り組む姿勢であり、1つのことをいかにきちんとやるかということです。」ISMの創業者である陳世霖さんが、チェロ奏者からパティスリーの道に入ったのも、芸術に対する追求からでした。
違った業界から芸術をとらえてみたいと思い、縁があってパティスリーの世界に入った陳世霖さんは、日本で学び、小松真次郎シェフと出会いました。当時小松シェフはこの業界に入って既に16年余り、父親も長崎カステラを作っていたので、幼いころからお菓子作りの世界を見聞きして育ちました。陳さんは、このような職人の小松シェフが力を発揮できる舞台を作りたいと思い立ち、ISMが誕生したのです。
スイーツのブランドを立ち上げる楽しさや大変さに話が及ぶと、小松シェフはこう話してくれました。「パティシエは天国のように夢のある仕事に見えますが、実際は地獄のように過酷で、毎日同じような作業の繰り返しです。スイーツに対する強い情熱がなかったら、とても続けられません。だから、より大切なのは心です。」テクニックは道具でしかなく、いかに心を込めて1つ1つの細かいことをきちんとするか、それが物事に取り組む際のあるべき姿であり、職人の精神なのです。
しかし、台湾の環境と気温でのお菓子作りには、日本とは違う難しさがあります。品質上のニーズから材料にもポリシーがありますが、台湾でそういった原料を入手するのは容易ではありません。価格も当然安いはずがなく、皆が味わえるおいしいものをと望んでいましたが、おそらく値段のせいで、1つ1つのことをきちんとやろうとするISMの思いが届かない消費者もいます。ここまで伺って、価格だけを重視する環境における大変さはAltoと同じだと痛感し、互いに励まし合いました。それでも、心配りや品質を認めてくれ、なじみ客となって私たちを支持してくれる人がたくさんいると。また、このことが、Altoが7周年を迎えることができた理由でもあるのです。
「自分たちが最高のパティスリーだとは思いませんが、自分たちが良いと思うスイーツを作るよう努めています。」それぞれの人の味覚は主観的なもの、だが重要なのは、自分たちが最も良いと思うスイーツを、心を込めてお届けすることだという陳世霖さん。これが、彼らが追い求めていることなのです。
Altoという皮革ブランドをどうやって知ったかという話になると、AltoとISMには特別な縁があるとのことで、陳世霖さんと小松シェフは共にAltoの革製スマホケースとトラベルフォンウォレットをお持ちでした。元はと言えば、陳さんがスマホケースを購入する際に、Altoの革製ケースの質感の良さに目を留め、自分用に1つ買うと同時に小松シェフにも1つプレゼント。そしてトラベルフォンウォレットが出た時には、小松シェフが見つけて大変気に入り、同様に1つを自分用に購入、もう1つが陳さんの手元にあるものです。趣味が同じなだけでなく、そこには二人の間の絆も感じられました。